弓は、古来より我が国において戦乱時は武器として、平時においても魔を鎮める神聖な神器として大切にされてきました。そのため、武士が心得る武術の中で最高のものとされており、武士のことを「弓ひき」・「弓とり」とも呼ぶのもそのためです。

 そして、その弓の利点は遠くのものを射ることであり、矢が尽き、弦が切れたならば弓本来の機能は果たせなくなってしまいます。弓矢が戦場において武器として使われていた時代、白兵戦となった場合は弓兵といえども格闘によって身を守る必要がありました。

 そこで、弓を槍がわりにして戦う、打根術が必要となったわけです。

 打根とは、長さ45センチから60センチぐらいの矢の形をした物で、先には手槍の矛先のようなものをつけおります。そのため、一見するとどのようにして使うものか、理解しにくいものですが、弓に結びつければ槍として、また、打根のみでも小刀・手裏剣・鎖と様々な用途に使用できます。まさに、臨機応変の武器として、間合いに応じて変幻自在に戦うことができるのです。

 さらに、目立たず、かさばらず、どこにでもそっと忍ばせておくことができるため、慶長の頃、諸大名の参勤交代や旅行に駕籠(かご)が用いられるときは、非常時に対する備えとして、打根を駕籠の片隅に立てて乗ったと云われております。つまり、武士として弓道家として当然身につけておかなければならない護身術でもあったわけです。

 しかし、維新後においては文献と打根のみが残り、この打根術そのものを実演できる者はなく、幻の武術として弓道家に伝えられてきただけでした。

 摂津系同門会ではこの打根術の継承に取り組んでおり、毎年4月の「川西市源氏まつり奉納射会」や射会において打根術の演武を披露しています。下の写真では、右の演武者が手に持っているのが打根(このときは打根を模した木の棒)です。

 


  『由美ごころ』目次へもどる


edited by Nobuhisa Tanaka
E-mail: