木下 | <弓は人生の縮図>とはなかなかうまく言ったものだな。 |
川島 | 自分の生活の中で起こった一見複雑そうなことを、弓道の修練の過程でおきかえてみると、意外とすっきり見えることが多くあります。 |
木下 | 世の中は本来シンプルにできていて、複雑そうなことも、単純化すれば実に明確に見えてくるね。 |
川島 | わからないことが出てくれば、<射法八節>に従えばよい。 |
木下 | 何事も原理原則というものがあって、それに則って生きればうまく生きられるということだね。 |
川島 | 基本原理、つまり極意というものをおろそかにして、何千本、何万本矢数をかけたところで、ムダな時間浪費そのものです。 |
木下 | せっかく地図を持っていても、判読の方法がわからないまま、迷い道をうろうろしているようなものだな。 |
川島 | 最高段位者になっても、何故一手二本の矢を持って行射するのか、知らない者がいましたよ。 |
木下 | 立ち居振る舞いがどうのとか、<礼に始まって礼に終わる>などと、お題目のように唱えてばかりいるからだな。 |
川島 | 「一本外れたから二本目で中てよ」の答えのレベルでは、外れたらシュンとして、中ったらバンザイしての、大衆弓道そのものです。せめて最低でも一本目のつまづきを二本目で取り戻し、そしてその次の大手柄につなげるために一手あるという程度の認識が欲しいものです。 |
木下 | 次の次へ行くための日々のターゲットがないためだな。 |
川島 | ターゲットつまり具体的な<目標>ですね。競り負けてしまうということは力が足りないのでなく、真剣さが足りないのであり、土俵際のふんばりがないのは自分自身に自信がないということです。 |
木下 | あせり、あがく果てに残るものは何もない。 |
川島 | 四射皆中する人よりも、常日頃、練習目標を持ちつづける十射八中の人の人生の方が、土壇場で大きく人間性が開けるということですね。 |
木下 | 必要なものは気迫と活力、つまり胆力だ。 |
川島 | まったくもって最近はハラができていない。有名な方でさえ、<会>に入って腹を見ると、スーハー、スーハー呼吸していますものね。まったく話にならない。 |
木下 | それでは、まったく平常心もなにもあったものではないな。 |
川島 | ハラが出来てこそ極意に近づけるのですから、いかにそのハラを創り上げることが肝要かというものです。 |
木下 | 初心者から創り上げないとだめだね。決して弓歴が長いからといって出来るものではないからな。 |
川島 | 二〜三週あれば、ハラの基本は体得できます。つまり基本の胴造りを徹底的にマスターすればよい。お尻の孔を締めて、臍下丹田に気力をこめる練習さえすれば、数十年修練している先生方に決して劣ることのない見事なハラが出来てくるはずです。 |
木下 | まあ六十度に踏み開くレベルでは程遠いということか・・・。 |